
「フラッド・ザ・ゾーン戦略」がついにFRBへ:その意図とは?
2025年7月、米国政治の中心で、トランプ大統領とパウエルFRB議長の間で新たな緊張が高まっています。表向きは「金利政策の方向性」を巡る意見の相違に見えるこの対立ですが、その背景には、トランプ氏が得意とする政治的戦術――“フラッド・ザ・ゾーン(flood the zone)”が見え隠れします。
この戦略は、標的に対して複数の視点から同時に攻撃を仕掛け、相手が反論しきれないようにするもの。圧力にさらされることで標的の立場が徐々に弱体化し、最終的に支配的な状況を築くという構図です。今回の標的は明らかに、米連邦準備制度理事会(FRB)のジェローム・パウエル議長です。
金利政策だけではない――FRB本部視察や改修費用にまで言及
トランプ氏の攻撃は単なる金融政策への不満にとどまりません。報道によれば、FRB本部の改修計画や予算に対しても強く異議を唱えており、それを審査する委員会に自身の意向に沿った3名を任命するなど、政治的な介入が加速しています。
7月24日には、トランプ氏がテレビカメラを伴ってFRB本部の改修工事を視察。この場で「望むことはただ一つ。金利を下げなければならない」とメディアに対して明言しました。この視察は、単なる経済的な確認ではなく、FRBに対する強烈な“圧力アピール”として演出された政治イベントだったと見る専門家も多くいます。
さらに、トランプ氏はすでに次期FRB議長候補の一人と非公式に会談を行っているとの報道も。これはパウエル議長に対する無言の警告とも言える動きです。
トランプ氏は“パウエル解任”には慎重姿勢も…
意外にもトランプ大統領は、現時点でパウエル議長の即時解任については否定的な見解を示しています。「彼は正しいことをすると思う。何が正しいかは皆分かっている」と述べ、あくまで“期待”という形で圧力を維持している様子です。
これは、中央銀行の独立性を正面から否定せずに圧力を加えるという、トランプ氏らしい巧妙なアプローチとも言えます。実際、トランプ氏はこれまでにも連邦政府機関や司法制度、さらには名門大学に対しても、多方面からの攻撃を仕掛け、段階的に自身の影響力を浸透させてきました。
今週のFOMCと雇用統計:市場とパウエル議長の緊張は最高潮へ
こうした状況の中で、今週の米経済カレンダーには極めて重要なイベントが控えています。最大の注目は、水曜日に閉幕する連邦公開市場委員会(FOMC)。市場の予想では金利は据え置かれる見通しですが、最大の焦点は会合後に行われるパウエル議長の記者会見にあります。
この会見では、今後の金利見通しだけでなく、トランプ政権からの政治的圧力に対してパウエル氏がどのようなスタンスを取るのかが注目されており、世界中の投資家やエコノミストの目が集まっています。
加えて、火曜日には求人統計(JOLTS)、水曜日にはADP雇用統計、金曜日には7月の雇用統計と、雇用関連の重要指標が立て続けに発表される予定です。これらのデータは、FRBが次の一手を決めるうえで重要な判断材料となるでしょう。
「FRBの独立性」は守られるのか、それとも政治に屈するのか?
トランプ氏のアプローチには、賛否が分かれています。支持者の中には「金利を下げることで景気が加速する」と歓迎する声もある一方、経済学者や市場関係者の多くは「中央銀行の独立性が脅かされている」と警鐘を鳴らしています。
特にパウエル議長は、インフレ抑制と雇用最大化のバランスを取るというFRB本来の使命に従い、短期的な政治圧力とは距離を取る姿勢を保ってきました。トランプ政権による露骨な介入が続けば、FRBの信頼性や市場の中立性そのものが損なわれかねません。
まとめ
2025年後半、米国経済の未来は“2人の男”の駆け引きに大きく揺れています。トランプ大統領の「金利を下げろ」という明快なメッセージと、パウエル議長の「市場の安定と独立性を守る」という姿勢。その緊張関係は今後さらに高まっていくことが予想されます。
今週後半には市場が動くかもしれませんね。
あなたは金利を下げるべきだと思いますか?