
米国が仕掛ける「関税ドミノ」の衝撃
2025年夏、世界経済は再び「関税」というキーワードに揺さぶられています。米国のドナルド・トランプ大統領が相次いで各国に対する追加関税を発表し、為替、株式、資源市場までもが影響を受ける状況となっています。
その中でも特に注目されたのが、ブラジル、韓国、インド、そして銅輸入品に対する関税措置です。これらの発表は、FRBの政策発表直後というタイミングで重なり、トランプ政権の“経済圧力外交”が加速していることを印象付けました。
本記事では、トランプ大統領による関税政策の背景と意図、各国への影響、市場の反応を読み解きながら、今後の世界貿易秩序の行方について分析します。
「一斉関税発動」の背景にある国内外の思惑
● ブラジルへの50%関税発表と“精錬銅”の除外
7月末、トランプ氏はブラジルに対して最大50%の関税を課すと発表しました。関税の発動は1週間延期され、多くの例外措置が設けられているものの、タイミング的にはFRBの政策金利据え置き直後であり、「利下げを促す間接的圧力」と見る向きもあります。
中でも市場を驚かせたのは、精錬銅の関税除外措置です。通常、銅は米国が輸入に依存する重要資源ですが、トランプ氏は最大の取引量を誇る精錬銅を関税対象から除外。これによりニューヨーク市場では銅価格が急落し、記録的な下げ幅を記録しました。
これは国内産業保護と物価安定のバランスをとる、“選択的関税”の典型例といえるでしょう。
● 韓国製品への15%関税と対日バランス
さらにトランプ大統領は、韓国からの輸入品にも15%の関税を課すと発表しました。この税率は、日本製品に適用されたものと同等であり、アジア主要経済圏に対する“均衡的圧力”と見ることができます。
トランプ氏は以前から、「各国がアメリカ市場に依存しすぎている」と繰り返してきました。韓国製品への関税もその一環であり、「米国に依存する以上、一定の“コスト”を支払うべきだ」というメッセージが込められています。
● インドへの25%関税と地政学的狙い
インドに対しては、ロシア産エネルギーや兵器の購入継続を問題視し、25%の高関税を発動する方針を発表しました。これは単なる貿易摩擦ではなく、米国の外交圧力の一環として読み取る必要があります。
つまり、トランプ政権は関税を「経済政策」ではなく「地政学的戦略」として活用しており、貿易と外交の境界線があいまいになりつつあるのが実情です。
為替市場も反応、円は4カ月ぶりに150円台へ
7月31日の外国為替市場では、円相場が一時1ドル=150円10銭に下落。これはトランプ政権が4月に日本や他国に対し関税を発表した際以来、約4カ月ぶりの水準です。
日本銀行の植田総裁が思ったほど利上げに前向きな姿勢を見せなかったことも影響しましたが、それ以上に米国による世界的な関税強化がドルを押し上げたと見るアナリストも多くいます。
利下げ観測が後退したこともあって、日米金利差がしばらく縮小しないという見方が円売りを加速させた要因となっています。
世界貿易秩序を組み替える「トランプ式通商外交」
トランプ大統領の動きは、単なる一国主義ではなく、新たな世界貿易秩序の再構築を目指す構想の一環とも捉えられます。
実際、トランプ氏はこの数日間で以下のような動きを見せています:
- タイとカンボジアとの通商合意(28日)
- 台湾との通商草案の策定開始
- マレーシアの関税措置発表予定(8月1日)
これらは「世界の仲裁者」としてのアメリカの存在感を再構築し、トランプ大統領自身の外交手腕をアピールする目的もあると見られます。
また、トランプ氏は世界全体に対して15~50%の関税を段階的に適用する方針を明言しており、「アメリカ市場にアクセスしたければコストを払え」という原則が強く押し出されています。
【まとめ】トランプ関税政策の本質と世界への影響
ドナルド・トランプ大統領の相次ぐ関税発表は、世界経済にとって一時的なショックにとどまらず、中長期的に貿易の枠組みそのものを変える可能性を秘めています。
- 50%関税という“極端な圧力”
- 例外措置を組み込んだ“選択的関税”
- 地政学と絡めた“通商外交”
これらの要素が混在するなかで、米国と貿易関係にある各国は新たな対応を迫られています。
同時に、市場は銅価格や為替のように極端に反応しやすい状況にあり、トランプ発言一つで価格が乱高下する“高ボラティリティ時代”に突入したのでしょうか。。。