米国株の10月アノマリー『ベアキラー』と呼ばれる転換点の真実とは

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米国株投資家の間で、10月は特別な月として語り継がれてきました。それは、この月に歴史的な市場暴落が集中しているという「10月効果(October effect)」の通説がある一方で、弱気相場の終焉を示す「ベアキラー(Bear Killer)」という正反対の側面も持ち合わせているからです。

本記事では、この二つの顔を持つ10月のアノマリーについて、その真相をデータと歴史から徹底的に解き明かしていきます。10月を「怖い月」として避けるべきか、それとも「絶好の買い場」として捉えるべきか、その答えを見つけるための洞察を提供します。

10月は本当に怖い月?『10月効果』の伝説と統計的真実

10月が「怖い月」というイメージを持たれている最大の理由は、過去の象徴的な市場暴落がこの月に起こったことにあります。投資家の記憶に深く刻まれた、以下の3つの出来事がその根源です 。  

  • 1907年恐慌(Panic of 1907): 銅市場の買い占め失敗に端を発した取り付け騒ぎが、広範な金融不安を引き起こしました 。この経験が、最終的に連邦準備制度(FRB)の創設へと繋がりました 。  
  • 1929年大暴落(Black Tuesday/Thursday): 米国史上最も壊滅的な暴落は10月に始まり、特に10月29日の「ブラックチューズデー」には、ダウ工業株30種平均が1日で12%近く暴落し、世界恐慌の引き金となりました 。  
  • 1987年ブラックマンデー(Black Monday): 1987年10月19日、ダウ工業株30種平均は史上最大の下げ幅である22.6%を1日で記録しました 。コンピューターを用いたプログラム取引が売りの連鎖を増幅させたことが主な原因とされ、この教訓から「サーキットブレーカー制度」が導入されました 。  

これらの強烈な出来事は、投資家心理に「10月は危険な月」という強い印象を植え付け、「10月恐怖症(Octoberphobia)」という心理的バイアスを生み出しました 。この恐怖感は、たとえ統計的な裏付けがなくても、アノマリーを語り継ぐ一因となっています 。  

データが語る「10月効果」の真実

出典:LPL Financial

統計データは異なる事実を語っています。1928年以降のデータを見ると、米国株式市場は10月に平均で0.6%以上上昇しており、長期的に見てプラスのリターンを示しています 。また、LPL Financialの調査(1950年以降)によれば、S&P 500が10月にプラスのリターンを記録した確率は約60%であり、これは年間平均とほぼ同水準です 。年間で最もパフォーマンスが悪いとされる9月の43%を大きく上回ります 。  

つまり、「10月効果」は、数年に一度の大規模な下落といった劇的な出来事を強く記憶に留める一方、それに続く毎年の平均的なプラスリターンを忘れがちな、投資家の認知バイアスに過ぎない可能性が高いのです 。  

10月のボラティリティ:恐怖か、好機か?

10月が年間で最もボラティリティ(価格変動)が高い月であるという事実は見逃せません。LPL Financialの調査によると、S&P 500において1%以上の上昇または下落を伴う変動が、他のどの月よりも多く発生しています 。この高いボラティリティこそが、市場の転換期を創出する原動力にもなり得ます。  

10月月内の株価はこう動く:上旬・中旬・下旬の傾向

10月全体を一括りにするのではなく、その内部の傾向を詳細に分析すると、より精緻な投資判断が可能になります。Stock Trader’s Almanacのデータによれば、10月は月内でも明確な傾向の変化が見られます 。  

  • 上旬:初期の弱さと不確実性 10月は、特に月初から7〜8営業日目にかけて下落する傾向があります 。これは、9月からの軟調な地合いが続いていることや、損出しのための売り圧力がまだ残っていることが主な要因と考えられます 。  
  • 中旬:サポート形成と反発 月の中頃になると、市場は底値を見つけ、反発に転じる傾向があります 。損出しの売りが一巡し、需給が改善することで、買い戻しや新規の買いが入りやすくなります 。また、主要企業の決算発表が出揃い始め、業績に対する不確実性が払拭されることも、投資家の安心感を回復させます 。  
  • 下旬:年末ラリーへの布石 10月下旬にかけて、市場は強さを増し、年末にかけての好調な期間「Best Six Months」に突入する準備期間となります 。投資家のリスク選好度が回復し、年末のホリデーシーズンへの期待が高まることで、市場全体のセンチメントが向上します 。

なぜ『ベアキラー』と呼ばれるのか?弱気相場を終わらせる10月の力

10月は、過去の暴落の記憶から「弱い月」というイメージがある一方で、実際には「ベアキラー」、すなわち弱気相場(ベアマーケット)の終焉となる月として知られています。この通説には、明確な統計的根拠が存在します。

弱気相場終焉の統計的検証

AlphaMountain Investmentsのデータによると、10月は他のどの月よりも弱気相場や調整局面が底を打つ回数が多いことが示されています 。この事実は、10月が単に不安定な月であるだけでなく、市場の方向性が変わる重要な転換点であることを物語っています 。  

実際に、いくつかの主要な弱気相場の底打ちは10月でした 。  

  • 1990年: 湾岸戦争への懸念や景気後退で下落した市場は、10月に底を打ちました 。  
  • 2001年: 9.11同時多発テロとITバブル崩壊後の不確実性の中で、市場は10月に底を打ちました 。  
  • 2002年: ITバブル崩壊後の弱気相場は、2002年10月9日に底を打ち、その後の長期的な上昇の出発点となりました 。  

転換期を生む構造的要因

10月がベアキラーとなる背景には、以下のような複数の構造的要因が複合的に作用しています。

  • タックスロス・ハーベスティング(損出し)のサイクル: 多くの投資家は、年末に向けて含み損を確定させ、税務上の利益と相殺する「タックスロス・ハーベスティング」という戦略を実行します 。この損出しのための売り圧力は、通常9月末から10月にかけて強まり、これが一巡することで市場の需給が改善し、新たな買いの触媒となるのです 。  
  • 季節性の転換点: 10月は、株式市場が軟調となる期間とされる「Sell in May and Go Away(5月に売って休め)」アノマリーの最終月です 。これに続くのが、歴史的に最も好調な期間とされる「Best Six Months」、すなわち11月から4月までの期間です 。年末のホリデーシーズンに向けて消費活動が活発化する時期と重なるため、市場全体のセンチメントが改善し、資金流入が促される傾向があります 。  
  • 第3四半期決算シーズンの影響: 10月は、企業の第3四半期決算発表が本格化する月です 。決算発表前の不確実性が払拭され、企業が予想を上回る好決算を発表すれば、それは市場の懸念を払拭し、新たな買いの触媒となり得ます 。特に弱気相場では、市場の期待値が低いため、わずかな上方修正でもポジティブに反応しやすいのです 。  

10月に注目すべきセクター:守りか、攻めか?

10月のボラティリティが高い環境下では、特定のセクターが他のセクターとは異なるパフォーマンスを示すことがあります。

  • ディフェンシブセクターの優位性 市場の不確実性が高いため、景気変動に左右されにくいディフェンシブセクターが比較的安定したパフォーマンスを示す傾向があります 。
    • 生活必需品(Consumer Staples): 食品、飲料、日用品など、経済状況に関わらず需要が安定している製品を扱うため、不確実な経済環境下で投資家の避難先となります 。過去25年間で、生活必需品セクターのETF(XLP)は10月に平均2.01%という高いリターンを記録しています 。  
    • ヘルスケア(Health Care): 医療品やサービスへの需要は景気変動の影響を受けにくいため、このセクターも同様に安定性が高いとされています 。  
  • その他(景気敏感セクター) 10月は、11月以降の好調な季節性を控えることから、景気敏感セクター(例:一般消費財、情報技術、資本財)が底打ちし、上昇の準備を始める可能性があります 。特に第3四半期決算で好調な結果を出したセクターは、市場全体のセンチメント改善や経済の先行指標として機能することがあります 。たとえば、2024年10月のデータでは、多くのセクターが損失を計上する中、金融と通信サービスが相対的に良好なパフォーマンスを見せました 。  

まとめ

今回の分析は、米国株式市場における10月のアノマリーが、単純な下落の神話と上昇の現実という二つの側面を持つことを明らかにしました。

  • 「10月効果」は心理的な神話であり、「ベアキラー」は統計的事実である。 歴史的な大暴落が投資家心理に植え付けた「10月恐怖症」は、統計的根拠に乏しい心理的バイアスです 。一方、10月は弱気相場や調整局面が底を打つ回数が最も多い月であり、これは年末に向けた季節的な流れやタックスロス・ハーベスティングといった構造的要因に支えられています 。  
  • ボラティリティこそが鍵。 10月は平均的にプラスリターンとなる一方で、年間で最もボラティリティが高い月です 。この激しい値動きこそが、市場の転換期を創出する原動力となっています。  

これらの知見に基づき、投資家は以下の点を考慮することが推奨されます。

  1. データに基づく冷静な判断を優先する: 「10月効果」という心理的バイアスに惑わされず、長期的な統計データや企業ファンダメンタルズに基づいて冷静な投資判断を下すことが不可欠です 。  
  2. 市場の揺らぎを機会と捉える: 10月の高いボラティリティと潜在的な下落は、長期的なポートフォリオの優良銘柄を買い増しする絶好の機会と捉えることができます 。  
  3. ポートフォリオを再評価する: 10月は、ポートフォリオのリバランスや、タックスロス・ハーベスティングといった税務戦略を具体的に実行するのに適した時期です 。  

この記事が、あなたの10月の投資戦略を立てる上で役立つことを願っています。